地方財政あれこれ

地方財政に関心のある会計士のブログです。地方財政ネタに限らず、日々学んだことをお伝えしていきます。

【参加報告】「分権社会と地方財政」関西大学経済学部林宏昭教授の講演に参加して

11月末に関西大学経済学部教授林宏昭先生のお話を聞く機会があり、行ってきました。

テーマは、「分権社会と地方財政」です。

以下、学んだことを記載していますが、前提知識が不足しているため講演の備忘メモのようになっておりますことをご容赦ください。

 

 

はじめに

 冒頭は、「地方公共団体職員の皆さんは、地方創生事業に振り回されていませんか?」という問いかけで始まりました。

地域を振興し、ひいては地方分権を進めるためなのに、どうすれば補助金がもらえるかと一生懸命考えているように見える。

補助金がもらえるようどの市町村でも考えないといけないのか、もらわない選択肢もあるのではないか、地方分権とは逆行しているようだ、というものです。

これには、私もそのとおりとうなずきながら、周りを見渡すと、同じようにうんうん、とうなずいている方が何名かいらっしゃいます。

その意味は、うちも振り回されているんです、というものなのか、確かに地方分権とは逆行しているなあ、というものなのかはわかりませんが、ぐっと引き込まれます。

 

財政政策の歴史的経緯

 そのあと、1980年代の財政悪化への対応として失敗に終わった一般消費税導入以降の政府の財政政策の歴史的経緯の話でした。

理解しきれず飛ばしているところが多々ありますが、お話を箇条書きで書いていきます。

 

アメリカと日米構造会議により内需拡大を約束していた。

バブル期に税収が増加した際、地方は補助金が減らされるのを恐れ、税収が増加した分をこぞって使った。

サービスを上げることに税金を使うとやめられないため、ハード事業に走った。

バブル崩壊したが、アメリカとの内需拡大の約束だけは残っている。

景気対策のため手っ取り早く公共事業に走る。

しかしそのうち地方がついていけなくなる。

 

バブル期には税収が上がるので地方交付税所要額は減るはずなのに、地方財政計画を拡げたため地方交付税も増えた。

バブルがはじけ、交付税財源も減る。そこで、交付税特別会計で借金をして臨時財政対策債を発行。

 

三位一体改革

補助金より使途を決めないお金を地方に回した方がいいだろう。

しかし、結果として地方への補助金が4.7兆円削減されたが、地方への税源移譲が3兆円。

地方から恨みを買う結果に。

 

地方財政は2000年をピークに抑制に向かう。

やっとこの10年くらいで落ち着いてきた。

 

分権社会は小さな政府に向かうとは限らない。

スウェーデン。福祉の国であり分権の国。

議員は無報酬。議会は夜開催され、住民参加で物事を決める。しかし小さな政府ではない。

大きな政府か小さな政府かは住民が決める。

 

政府支出の対GDP比国際比較では、フランスが60%で最も大きい。

次に50%のスウェーデン

日本は40%弱で先進国の中ではそれほど大きくはない。

 

1970年代から道州制の議論が始まった。

関西は1970年代から道州制の議論をしてきた先進地。

 

どれくらいの人口があれば住民一人当たりの経費が減らせるか。(人件費は固定費で人口が少なくても一定程度かかる)

30万人くらいという結果であった。

 

ニュージーランドは人口が約400万人。四国と同程度の人口。

ニュージーランドは一つの国として成り立っている。

四国だけで成り立たせることができるのか、という検討が道州制の議論の発端。

地域で考えるというのが道州制の根っこ。

またすべての市町村が政令市になれば、都道府県は不要。

 

地方分権のためには地方税を上げないといけないという論がある。

地方税が予算全体の10%くらいしかない都道府県がある。地方税が1.5倍になったところで、歳入はそれほど増えない。

 

どの自治体でも同じことをしなくて良いと思っている。

地方都市のJRの駅に行くと、どこも同じ施設があり同じホテルがある。

地方には、自然豊かで環境のいい暮らしができるという利点がある。

どこも同じものを目指さなくてよい。

 

一方、教育など国の責任ですべきことがある。

しかし地域に分散していることをすべて国が実施するのは非効率。

 

分権社会と地方税の課題

 租税原則と地方税原則

租税原則としてあるのは、公平、中立、簡素

公平には応能、応益の考え方がある。

 

過去の税制改革の時は、増税、減税反対の議論があった。今はあまりされない。

地方税はどうあるべきか、といった点からの議論もない。

 

サラリーマンの地方税所得税より多い。多額の地方税を収めている。

一方、地方公務員は、地方税は国が決めていることだからと住民にその趣旨が説明できていないのではないか。

自治体職員は、地方税の在り方について住民に説明できないといけない。

また、自分の意見が言える職員を育てることは住民自治地方分権においては重要。

 

質疑応答

 

個人住民税の課題の現年課税化とは

外国人が多い地域では1月1日時点にすでに居住していないことも多く、住民税をとりっぱぐれることが多い。現年課税の必要性が叫ばれている。住んでいる期間と課税の期間にずれが生じていることも問題。

国の方で現年課税化の検討をしているところ。

しかし、現年課税化は難しい。事務負担がかかるため企業は抵抗。

また、切り替えの時をどうするかが難しい。(切り替え時に二重で納めないといけなくなる。事務負担もかかる)

外人の場合、出国を付加期日にすることも検討されている。

 

日本は国税地方税とも人、物、資産の課税へのバランスがいい。

地方消費税都道府県、地方税は市町村のように、関係がわかるようにした方がよい。

 

講演後に

2時間ほどで講演は終了し、そのあと先生にお茶を誘っていただいたので、非常に基本的な質問をいくつかして、ちょっと理解が深まりました。

8年前に某公共政策大学院に行って財政学のさわりは学んだはずですが、すっかり忘れています。

 

たとえば、下記のようなお話をお聞きしました。

私:費用対効果に疑問のある公共投資がされるのはなぜか。

林教授:GDPを上げるのに、質は問われないから。

(私:これには非常に納得)

私:住民参加と言わなくなってきているというお話があったが、なぜなのか。今後税収が減少し、行政が提供できるサービスが低下することを考えれば、住民が自分事として主体的に自治にかかわることが重要ではないのか。

林教授:安倍政権が力を入れていないため、地方もそれにならっている。

私:国にならえでは地方分権と逆の方向ですね。

私:景気には波がある。歳出は急に減らせないので、税収をならして、景気がいいときはたくわえ、景気が悪化すればいいときのたくわえで歳出をまかなうべきなのに、上がれば上がっただけ使い、下がれば借金するのはなぜなのか。

林教授:バブル期には地方交付税率、補助率の引き下げ議論にならないよう地方財政計画を膨らませた。またためておくと目を付けられる。ある団体がバブルのころ税収の一定割合を積み立てる条例を作るのに一苦労だった。

 

地方財政のお話は非常に興味深かったです。

今回の講演内容をもう少し深く理解できるよう勉強していきたいと思いました。

林先生、ありがとうございました。