第2回「公会計と地方財政の勉強会」で、大川会計士から「我が国の地方自治体における財務報告の変革の必要性について」お話しいただきましたのでご紹介します。
はじめに
前編では第一部の兵庫県多可町の「自治体経営における財政収支見通しの重要性」についてご紹介しました。
第二部は、大川公認会計士の「我が国の地方自治体における財務報告の変革の必要性について」~Australiaにおける先行研究及び事例を踏まえた考察~です。
大川会計士は大学卒業後、大阪府に入庁し財政課で決算統計や改訂モデルによる財務書類作成業務などに従事。そして職員として働きながら公認会計士試験に合格。
合格後は大阪府を退職し、某大手監査法人にて、地方公会計や公営企業の法適化支援業務などに従事されていました。
その監査法人も昨年退職し、4月からは、大学院の博士課程に進まれる予定です。
公認会計士協会近畿会の社会・公会計委員会の委員として一緒に活動している仲間でもあります。
ご紹介した通り、行政にも、会計にも通じるまさに公会計になくてはならない存在。
今回の報告内容は、行政での経験、監査法人での経験を交えたお話で、今の地方自治体の財務報告の変革の必要性についてです。
現在の財務報告の課題
オーストラリアの研究者James Guthrieの研究論文やニューサウスウェールズ州の予算書との比較を踏まえ、日本の自治体の財務報告の課題は次の通りであると述べています。
【ストック情報の表示】
・ 資産の大半を占める有形無形固定資産の価額を表示しておらず誤りや脱漏も多い。
・現金預金や未収金、投資その他の資産、支払金などのその他の資産負債についてフロー情報と連動しておらず誤りが生じやすい。
・ 資産負債が一覧把握できない。
【フロー情報の表示】
・資金の増減は表せても、純資産の増減が表せない
・ 返済が必要な借入収入も、不要な税収入も同じ歳入として同レベルで扱う。歳出も同様で、費用としての支出と借入償還のための支出を同じ歳出として同レベルで扱う(なお、ニューサウスウェールズ州の予算書では、借入金はそもそも歳入として取り扱われていない)
・上記の結果財務業績が表示されるものとなっていない
【報告書の体系】
・ 地方自治体の公共する際に関する資料として、歳入歳出決算書、地方財政状況調査票(決算統計)、主要な施策の成果を説明する書類 などに分かれ、自治体の前の全体像を把握するにはこれら全般を理解する必要があるが、 それぞれの資料で範囲や情報の開示基準の統一性、一貫性が確保されておらず、 団体によって公表している情報も様々
財務報告に求められる変革の必要性
日本の公会計改革が行われた前提として、 現行の財務報告制度における先に挙げた課題の他、次の事項が根底にあるということです。
・高度成長期に整備したインフラの老朽化
・平成18年の夕張市の破綻
・平成19年に発覚した大阪府の不適切な会計処理
夕張市の出納整理期間を用いた負債の隠蔽はよく知られるところですが、大阪府では、減債基金からの借り入れや、本来認められない額での借換債の増発を行なっており、平成19年の新聞報道により発覚したそうです。借換債の増発残高はこの時3500億円にも上っています。
そしてこのような大阪府の決算のカラクリは通常の歳入歳出決算書を見てもわかりません。
しかしこれを公会計のキャッシュフロー計算書(資金収支計算書)の形にしてみると、業務活動収支の数倍にも上る投資活動支出が行われ、財務活動収支から賄われていることが分かります。
大川会計士としては、 現状の財務報告を改善する方法として、歳入歳出決算書を地方公会計のキャッシュフロー計算書(資金収支計算書)の形とし、予算段階においても同様の形式とすることで、予算段階から資金の性質区分ごとの分類を行うことが第一と考えているとのことです。
もちろん発生主義会計の有用性は否定していませんが、
現金主義情報のコストパフォーマンスの高さ
すなわち比較的容易に作成できにもかかわらず必要な情報が入手でき、客観性も高いこと
発生主義会計の成熟度の低さ
すなわち、各団体における固定資産台帳の精度の違いや比較の困難さ、発生主義会計の習熟度の違い、報告書作成に時間がかかりすぎ適時に入手できないこと
をその理由として挙げています。
そして現段階において必要なことは、現金主義と発生主義を対比することではなく、
予算科目を、ストック情報を適切に整理できる複式簿記を見据えた適切な区分に改めることだと述べています。
これについては大いに賛成で、予算科目と公会計科目が相違し、公会計の決算書を見ても連続性がないためその意味するところが理解できず、公会計は使えないと思われても仕方がない節があります。
大川会計士としては、自治体の予算科目について、最低限、次の三つの点を満たす必要があるとのことです。
1.資産となる支出か費用となる支出か。
2.地方債元金の償還支出か、利息の支払か。
3.貸付金の元本回収か、利息の受け取りか。
私としては、公会計科目では予算科目を集約してしまうため、決算情報を次の予算に使うのは到底無理で、もう少し詳細レベルで合わせておく必要があるのではと思っていますが、基本的にはまず勘定科目というところは全くもって同意です。
そして、地方公会計に特有の発生主義についてですが、こちらは導入しないということではなく、むしろより促進すべきとの考えです。
大川会計士が考える発生主義情報の有用性については次のとおりです。
(以下配布資料からの抜粋。一部要約等の編集あり)
・サービス提供能力としての資源やそれに対する権利(財政状態⇒すなわち借金やその他の負債がどれぐらい残っているかと理解すればいいと思います)を表示するには発生主義会計が不可欠。
・ 発生主義か現金主義かは認識のタイミングの違いではあるが、期末の財政状態の把握のためには発生主義会計が不可欠。
・ 資産管理という実務的な面から自治体が保有する資産を適切な金額で評価し、一覧化した固定資産台帳は不可欠であり、その状況を一覧的に表示する貸借対照表は必要不可欠。
・ 公共施設や個別事業の運営状況を評価するには、当該期間の資金フローのみで判断することはできずイニシャルコストを反映する必要がある。そのためには発生主義会計の考え方を導入するのが合理的。
大川さん、非常に詳細なまとめの資料と発表ありがとうございました。
私も会計士なので、会計的な観点についてはよく理解ができます。
一方で、地方公会計はそれほど有用な情報を提供していないのではないか、 必要ないのではないかと思うこともあるのですが、財政課での経験のある大川さんがそれだけ力説されるということは、 やはり公会計、発生主義会計側から見て現在の自治体の会計制度では欠落している点があるということでしょう。
その辺りが私のこの報告でうまく反映できているか自信がないのですが、是非大川会計士には今後どんどんその辺りの情報発信をしていただけたらと思っています。