3月に開催された「滋賀大学公共経営イブニングスクール」に参加しましたのでご報告します。
はじめに
テーマは「自治体の財務情報を見える化する」、講師は元千葉県習志野市会計管理者の宮澤氏です。
習志野市は地方公会計の取組みに熱心に取り組んでいることで有名です。
宮澤氏は昨年習志野市を定年退職し、現在は地方公会計の専門家として、全国あちこち飛び回られています。
地方公会計の著書もたくさんあります。
今回は私の出身大学である滋賀大学でお話されるということで、聞きに行ってまいりました。
印象に残ったお話
特に印象に残ったのは次の点です。
1.たこ焼きと亀、高級靴と旅行の事例
①お祭りでたこ焼きと亀を購入(小遣いをもらい現金払い)
②高級靴と旅行の購入(カード払い)
歳入歳出決算書だと、すべて現金払いが起こった時点の歳出ということになります。
公会計だとその支出の内容に応じて、費用と資産に分けます。
費用になるもの・・・すぐ成果が分かるもの ⇒たこ焼き、旅行
資産になるもの・・・何度か使って 1回あたりの金額が分かって、初めて費用対効果がわかるもの ⇒ 亀、高級靴
収入としては、カードでの調達(ローン)も小遣いもいずれも歳入になりますが、公会計ではローンは負債になるのに対し、小遣いは返済不要なので収益⇒純資産になります。
図に表すと次のような感じです。
テキスト P 36より抜粋
公会計と歳入歳出決算書では、全く同じものを購入しても記録の仕方がずいぶん違うことがわかります。
このようにわかりやすい事例を用いて考えてみると、 資産と費用に区分する違いの理由も直感的に把握しやすいなと思いました。
そして大事なのは、こうやって貸借対照表に資産を計上したあと。
亀は買ってきたら、亀を飼うゲージ、餌代のコストや、世話をする手間がかかります。
一方たこ焼きは食べたら終わりです。
同じお金を使っても、その後にたくさんのコストがかかる資産と、その場でなくなる費用では将来的なコストのかかり方が大きく異なります。
複式簿記でしっかり資産と費用を分類して、 将来に負担のかかる資産を把握することは、今後の計画を立てる上で非常に重要になるというお話が印象的でした。
2.施設マイナンバー
習志野市では施設別財務諸表を作成しています。
作成にあたっては施設にコード(これを施設マイナンバーと呼んでいる)を設け、支出伝票をマイナンバーに振り分けているのですが、面積按分等で単純に割り振るのでなく、それぞれの施設でかかった額を把握するようにしています。
面積按分すれば施設のコストは把握できるかもしれませんが、 それは施設で実際かかった額と相違しているかもしれません。
実際額を把握しなければ、 その施設の本当の無駄が分からない、 ということで、習志野市では伝票の段階で施設ごとに実際かかった経費額を振り分けているのです。
これは施設別行政コスト計算書の作成でかなり特徴的なところであり、目指すべき最終形だと思います。
3.減価償却費を使用料、手数料等の単価の積算に含めるか
これは「 Facebook グループ公会計をもっと身近に」でも話題になっていました。
習志野市では、平成25年12月より、減価償却費を算定根拠に含めた「使用料、手数料等の単価の積算基準」(改訂版)を策定し、使用料、手数料を算定しています。
ただし、減価償却費は固定資産台帳のものをそのまま使うのでなく、 若干の調整をしているそうです。
習志野市は基準モデルでしたので、固定資産台帳に計上している金額は当時再調達価額でした。再調達価額の場合、取得時よりも物価が上昇していると取得価額よりも大きくなってしまい、取得に要した金額よりも積算額が多く大きくなり、市民の負担額が大きくなってしまいます。
そのため、減価償却費の計算では、固定資産台帳の計上額でなく取得価額を用い、また減価償却費の金額からは、建設時の特定財源の金額は控除し算定しているそうです。国から補助金をもらっているのにさらに市民から使用料をもらうとダブルで徴収することとなること、 市民に過剰な負担を課すことになることが背景にあるそうです。
ちなみに、算定基準案を議会に測ったところ、議会では、使用料の値上げについての反対意見はあったものの、減価償却費を積算対象に含めることについての反対意見はなかったとのことでした。
習志野市は古くから公会計に取り組んできたので、発生主義や減価償却費の考え方が議会にも浸透していたのではないかと思います。
4. 行政サービスの値札
平成25年に青年市長会が中心となり実施された取り組みで、市民に身近な事業のコストを算定して比較するというものです。
62市が参加し、実施されています。
習志野市のコストの順位は次の通り。
【小学校給食事業】 45位/50市
(低い理由)正規職員が他市より充実
(これを受けての改善)給食授業は委託化しコストを削減
【生活保護業務】 37位/55市
(低い理由)ケースワーカーの数が他市より充実
(これを受けての改善)現状維持
【道路維持管理業務】 52位/55 市
(低い理由)東日本大震災の影響による災害復旧工事の増、都市化による舗装道路の増、交通量が多く劣化が進みやすく維持補修費がかさむ
【所得税の還付申告・住民税等の相談業務】 6位/50市
(高い理由)税理士に委託しており、人件費コストが低かったことによる。
順位が高いからいいとか低いから悪いということではなく、その団体が目指したものであるかが重要というお話が印象的でした。
例えば、生活保護業務は比較的低い順位にありますが、ケースワーカーを充実させるというのは市の方針であり、現状維持したということからもその姿勢がわかります。
最近公会計でもセグメント別財務書類を作成し、団体間比較をしようと言う取組みが始まっています。
このように他団体と比較することで、自団体の特徴や改善点がやはりよくわかるなと思いました。
5.固定資産の過去の取得額のグラフ
これは個人的に私も取り入れてみようと思ったものです。
固定資産台帳のデータを使い、過去の取得年次ごとの固定資産の取得金額をグラフ化するというのは私もよくやっているところです。
宮澤氏のグラフでは、棒グラフに内訳があり、取得価額のうち、期末簿価と減価償却累計額が内訳が分かるようになっています。
こうすると取得した資産の減価償却がどれくらい進んでいるかというのが一目瞭然です。
特に左側の年度が古いものほど減価償却累計額の割合が大きくなっており、 古い資産ほど減価償却が進んでいるということが視覚的にわかります。
テキスト P 33より抜粋
その他、習志野市では公共施設更新のための基金を、減価償却の考えをもとに積み立てたり、公会計の財務データを持って実際の公共施設を見に行く「バランスシート探検隊」の取り組みを他に先駆けて実施したりと、非常に先進的な取り組みをされています。
私も全国で開催される「バランスシート探検隊」に参加したり、習志野市の取組みを参考にさせていただいているところです。
宮澤氏の著書
宮澤氏はまた習志野市在職中も含めたくさんの本を出版されています。
主な著書はこちら
・公会計が自治体を変える! -バランスシートで健康チェック(第一法規)
・自治体議員が知っておくべき、新地方公会計の基礎知識(第一法規)
おわりに
ちょうど、3月末に総務省から財務書類の各団体のデータベースが公表されました。
宮澤氏の著書「公会計が自治体を変える! -part 3」では、財務書類等データを使った他団体比較分析が紹介されています。
この分析手法を使って、データを見ていただくとより各団体の特徴が理解できるのではと思います。www.soumu.go.jp
宮澤さん、これからも公会計のプロとしてのご活躍、期待しています。
(本文中のテキスト写真掲載は宮澤氏の了承を得て掲載しています)